Vol.9 原動力
開校して3年経っても、生徒数は30名くらいでした。いつになったら安心して教室運営をすることが出来るのか、不安で胸が一杯でした。
どういう風に子供たちに教えればよいのか、どんな教材を使い、どんな内容を提示していけば効果的なのか、子供の指導法もお母様方の指導法も私には分からないことだらけでした。それで、前々回も書いたように、有名な先生や力のある先生のところへ伺いました。
当時の七田は、どこの教室も多かれ少なかれ同じように悩み、もっと勉強しなくては、という気迫で溢れていました。力のある先生のところへは、自然ともっと学びたいという先生方が集まってきました。
しかし、当時の私には、教わるばかりで何もお返しできるものがありませんでした。教えてくださる先生方の貴重なお時間を、ただただご好意のみで頂いていたのです。その時私が出来たことは、先生方へ礼を尽くすこと、教材その他でお返しできない分、せめて金銭で出来るだけのことをすること、明るく楽しく振舞って場を盛り上げること、そして何より一生懸命に真剣に教育に取り組み少しでも良い教育をしていく情熱をお見せすることでした。
そのような中で私は、研修会で知り合った東京のT先生のところへ勉強に行かせていただく約束を取り付けました。仲間3人でT先生の教室へ伺いました。ご自宅の一部を教室にされていて、とても品のある素敵な教室でした。ご夫妻で教室をなさっているのですが、お二人の雰囲気そのままの豊かで温かくとても上質な感じがして、それまで伺ったどこの教室とも違っていました。私は自分との教室とのあまりの違いに驚くばかりでした。

先生方は、知り合ったばかりの私たちを、まるで友人のように温かく迎えてくださり、すべてをオープンに見せてくださいました。そして、ほしい教材は何でもお分けすると言って下さいました。包んだお礼のお金を受け取らず、帰りに私たちに食事を振舞ってくださいました。当時の私たちにそのように良くして下さっても、損得で言えば何一つ得なことはありません。私たちに対し、上から教えてあげるという態度ではなく、一人の人間として敬いの態度で接してくださいました。無理を言って勉強させて頂いたのに、こんな扱いを受けたのは、初めてでした。
毎日毎日が厳しく辛く感じていた私は、ご馳走になりながら涙が止まりませんでした。そして、どんな事をしてでも、いつかきっとT先生ご夫妻にお返しができるようになろうと強く思いました。
あの日から、もう10年以上が経ちます。私は良い教材ができると、いつも、いの一番でT先生のお教室にお送りします。私は誰に褒められるよりT先生に認めて評価して頂けることが励みになりました。あの日から、どれほど私はT先生ご夫妻に助けていただいたか知れません。深刻な悩みを真剣に聞いてくださり、いつも温かく親身になって勇気づけてくださった奥様。大切な岐路にいつも的確なアドバイスをしてくださったご主人。どうして人があのように温かく、公正に、広い心になれるのか、私にはわかりません。
同じ、七田の中でこのように心から尊敬できる先生と巡り合え、懇意にお付き合いさせていただけたことは、本当に幸運だったと思います。素晴らしい人たちに出逢い、一歩でも近づきたい、そんな想いが私にとって、頑張る大きな原動力の一つです。≪つづく≫